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『アベンチュリン』を出た後、原田は駅の改札口まで彩子を送り、個人の連絡先を添えた名刺を手渡した。
「明日の25日から5日間、神奈川の工場へ出張に出かけます。何かあったら連絡をください。仕事中は電話に出られませんが、必ず折り返しますので」
懐っこい笑顔を見せると、ホームに向かう彩子に手を振った。
彩子も同じように、片手を上げて振り返した。
(とてもいい人だ)
原田良樹のことを、彩子は心からそう思う。
男としてというより、人として好きになれそうな気がする。穏やかで温かな空気が、彼女を包んでいた。
ぼんやりとしたまま電車に乗り、いつの間にやら駅に着いていた。駅には弟の真二が迎えに来ていた。
家に着くと母があれこれ訊いてきたが、さすがに疲れたし眠かったので、勘弁してもらう。
また、今夜の出会いを一人で噛みしめたい気分でもあった。
だけど、風呂に入ってベッドに倒れこむと、たちまち睡魔に襲われる。
とても幸せな、それでいてゆらゆらと揺られるような、夢の世界へと落ちていった。
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