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「彩子ちゃん、良樹君とのお見合い、何だかいい感じみたいね。伯母さん嬉しいわ」
居間のソファに座ると、伯母は明るく笑って彩子の手を取った。
「うん……あ、でも」
「大丈夫よ、慌てないで。しばらくお付き合いしてから返事をちょうだい。待ってるから、ね」
おっとりとした口調に、彩子は安堵する。
前向きに考えると決めはしたが、今は彼についてほとんど何も知らない。性急な返事はできないのだから。
「ああ、夢なら覚めませんように」
母がコーヒーカップを両手に包み、祈る真似をした。
彩子と伯母は顔を見合わせ、苦笑を浮かべる。この母親は、もう結婚が決まったと思い込んでいるようだ。
伯母は、母が焼いてきたトーストを食べながら話した。
「あの子……良樹君のことはね、赤ちゃんの頃から知ってるのよ。穏やかな男の子でね、ご両親も『あいつが怒るなんてめったにない』って、いつも不思議そうにしてるわ」
「まあ、いいわねえ~」
短気な夫を持つ母は、心底羨ましいという顔をした。
短気な両親を持つ彩子は、そんな仏様みたいな人がこの世にいるだろうかと、にわかには信じがたい気持ちになる。
しかし、原田の微笑みや穏やかな物腰を思い出すと、素直に納得できた。
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