2.異常

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 夕飯はレトルトカレーだった。  宣言通り台所に立った霧島は、米を炊き、湯を沸かし、レトルトカレーを探し当てた。皿に盛って、終わり。  食欲なんてなかったが、食べ物を無駄にしたくない。霧島の顔を見ないよう下を向いて、スプーンを動かす。 「またループしたら、このカレーも元通りですね」  手元でカチャンと不快な金属音がした。 「そういうの、やめろよ」 「想定できることですよ。僕らが何故七月に取り残されたのか、それすらわからないわけですし」  平然と言って、手を合わせる。霧島が食べ終わった一方で、僕はまだ半分以上残っている。  すぐ出て行くかと思ったのに、違った。霧島は椅子に座ったままだ。  怪訝に思って見ると、あの泥のような目が無表情の中に浮かんでいた。 「ユイさんは、何もかもが虚しくなることはありますか」 「……え?」 「虚ろでからっぽだと、生き死にすらどうでもよくなる。明日が来ようと来まいと関係ない。どうせ、この虚ろな心は満たせない」  抑揚のない声に、芯から凍りついてゆく。心臓が脈打ち、恐怖でいっぱいになる。  僕が一言も発せないでいると、霧島の無表情に失望の色が滲んだ。 「わかりませんか。……わかりませんよね」  口元に苦笑いが浮かぶ。去って行く背中に、奇妙な焦りを覚えて呼び止めた。 「霧島」  ふり返る。元の柔らかなだけの笑みで。 「何ですか?」 「……ここから出たら、どこに帰るんだ?」  霧島が困惑したように眉を顰める。 「帰る場所なんてありませんが」 「は?」  今度は僕が戸惑う番だった。帰る場所がない? 「知りませんか?父は数年前に死んでいますし、祖父母も既にいませんでした。親戚の家を転々としていましたが、最近は行く先々で人が亡くなり、行き場がなくなりました」  他人事のようなスラスラ語られる内容に絶句する。軽くは母から聞いていた。が、ここまで酷いとは思わなかった。  なのに、霧島は平然としていた。何の感情も見当たらず、口元だけは微笑のまま。 「あんたは辛くないの?」 「辛い?」 「周りの人間がどんどん死んで、たらい回しにされて、こんなド田舎にやられて。悲しいとか苦しいとか、思わないのかよ」  霧島から笑みが消えた。黒々と濁った泥の瞳が、僕の顔を見つめる。 「さあ。よく、わからない」  ああ、こいつは壊れている。
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