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ゾッとして僕は跳ね起きた。霧島の温度の低い手を払いのけ、後ずさる。
「ふざけんな。僕に死ねって言うのか?」
「どちらとは言ってませんよ。死にたくないなら、ユイさんが僕を殺したらいい」
他人事のように言って、くすりと笑う。
「僕はどっちでもいいんですよ?ループを苦だとは思わないし、殺されるのも平気です。どうぞ、ユイさんのお好きなように……」
ぶつりと、何かが切れた。
気づけば、左頬を赤く腫らした霧島が畳に倒れていて、僕は馬乗りになっていた。霧島の襟元をつかむ手がひりつき、ぐらぐらと胃の底が煮え滾る。
「いい加減にしろよ。こんな状況でへらへら笑って、殺せ?あんたなんか殺したくもない。死ぬなら勝手に死ねよ。僕を馬鹿にして、めちゃくちゃにして、そんなに楽しいか!」
霧島は無表情だった。だが、恐怖を怒りが上回って、止まらない。
「気持ち悪い。理解できないししたくもない。全部……ぜんぶ、あんたのせいだろッ!」
ひくりと、霧島の喉が動くのが布越しに伝わってきた。
唇に引き攣った笑みが浮かぶ。泥のような瞳から透明な雫が溢れて、僕の手に落ちる。
傷ついたような顔だった。
「あなたも、そう言うんですね。僕のせいだって。気持ち悪い、理解できない……」
次々こぼれ落ちる涙に熱を吸われ、怒りは急速に収まった。襟から手を放し、降りる。いくら何でも言いすぎた。
「ごめん、今のは……」
「いいんです。あなたは正しい。……仕方ない、なぁ。僕さえ、僕を否定する。もう、どうしようもない」
からからと乾いた笑い声を上げて、霧島が立ち上がった。
「あなたなら、僕を理解してくれると思ったのに」
ひび割れた呟きが僕の胸を刺す。
霧島はそのまま、ふらふらと家を出て行った。
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