4.終点

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4.終点

「これで終わり。夜中に他人の愚痴を聞くなんて、ユイは物好きですね」  霧島は皮肉げに笑った。柔らかさが消えて、棘がある。けど、今の笑みは嫌いじゃない。 「はいはい。……てか、何で呼び捨て?」 「急に兄貴ぶってきたので。戻しましょうか、お兄さん?」 「別に、いいけど」  ボソボソ言うと冷笑してきた。イラッとしたので、僕も嫌味を返す。 「そういえば、あんた料理できないのか?いっつもレトルトだったけど」 「……習ってないだけです」 「ははっ。酷い負け惜しみだ」 「あなた友達いないでしょう」 「あんたもな」  他愛のない、兄弟のような会話だった。この繰り返しの中で、初めての。  互いに沈黙した瞬間、夜の景色が歪み、溶け始めた。慣れた感覚。まばたきもせず、待つ。  真昼の駅に変わる。僕の目の前にはジャケットとストールを揺らす、霧島涙。  けれど、いつもと違った。  ギシギシ、のろのろと電車がやって来て、停車した。去ってゆくのではなく。  ひとりよがりの感情のループ。妬んで、苛立って、期待して、失望して。  ここが終着駅なのだろうか。 「終わりみたいですね」  普段と違う位置。霧島の顔が逆光で見えない。 「行くのか?」 「ええ。僕らは双子だけど、違う人間なのでしょう?」 「……そうだな」 「これでまたループだったら笑えますね」 「やめろ、馬鹿」  かつりと靴音が響く。僕も足を踏み出した。  すれ違う。 「さようなら、ユイ」 「ああ。……頑張れ、ルイ」  ふり返らず、歩く。僕の家にむかって。  ガタンと電車が動き出す音がして、ゆっくりと遠ざかっていった。
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