1.邂逅

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 チクタク、チクタク。  今日は、朝から時計が狂っていた。 「あっつい……」  汗を紺色のハンカチで拭い、呟く。  さびれたホームのベンチによりかかって、間抜けな青空を仰いでいると、ギシギシ、のろのろと電車がやってきた。  ガタンと一際大きく揺れて、停車する。ガラガラの車内にぽつんと一人分の影。  手動の扉が開く。  ホームに降り立った人物に、僕はひゅっと息を飲んだ。  この暑い中、グレーの長袖のジャケットと細身のスラックスを身につけて、赤いストールを熱風に揺らしている。腕時計に革靴、ピカピカのスーツケースを一つ。  自然が豊かなことだけが取り柄のここら辺では見かけようもない、洒落た青年だった。  かつりと、靴音が響く。距離が縮むたび、僕の鼓動も速くなってゆく。  微笑を浮かべた唇から、よく知る声が流れ出した。 「はじめまして、早坂唯さん。この暑い中わざわざありがとうございます」 「いいよ、別に。てか、初対面なのに確認とかしないの?人違いだったらどうするんだよ」 「確認が必要ですか?」 「……ないけど」 「ですよね」  悠然とした空気にいちいち苛立つのは、何故なのか。  襟足の長めな黒髪、線の細い身体。柔らかで中性的な顔立ちで、どことなく影がある。  僕と全く同じパーツで構成された、全く別の人間。 「僕らは双子ですから」  東京から来た双子の弟・霧島涙は、くすりと笑って囁いた。
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