1.邂逅

4/6
前へ
/19ページ
次へ
 母とのやり取りを思い出しながら、何の変哲もない、田んぼだらけの田舎道を歩く。時折吹く熱い風が、土と緑の匂いを運ぶ。  霧島は物珍しげに辺りを見渡しつつ、僕の半歩後ろを歩く。 「綺麗なところですね、ユイさん」 「別に。何もないところだろ」 「そうですね。単純で暮らしやすそうです」  嫌味か。  僕が黙ると霧島も無言になった。  やがて、古い一軒家に到着した。引き戸を開けて入ると、お邪魔しますと霧島の声が続く。 「部屋はそこの客間を使ってくれ。今お茶でも……」 「ありがとうございます」  一礼して、霧島はスタスタ部屋へ歩いて行った。ぱたんと戸が閉まり、再び静まり返る。  気に食わない客だが、一応お茶くらいは出そうと思っていたのに。  ムッとしながら何となく食卓を見やると、高級チョコレート入りの缶がいつの間にか置いてあった。  隙なしってか。腹立つ。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加