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母とのやり取りを思い出しながら、何の変哲もない、田んぼだらけの田舎道を歩く。時折吹く熱い風が、土と緑の匂いを運ぶ。
霧島は物珍しげに辺りを見渡しつつ、僕の半歩後ろを歩く。
「綺麗なところですね、ユイさん」
「別に。何もないところだろ」
「そうですね。単純で暮らしやすそうです」
嫌味か。
僕が黙ると霧島も無言になった。
やがて、古い一軒家に到着した。引き戸を開けて入ると、お邪魔しますと霧島の声が続く。
「部屋はそこの客間を使ってくれ。今お茶でも……」
「ありがとうございます」
一礼して、霧島はスタスタ部屋へ歩いて行った。ぱたんと戸が閉まり、再び静まり返る。
気に食わない客だが、一応お茶くらいは出そうと思っていたのに。
ムッとしながら何となく食卓を見やると、高級チョコレート入りの缶がいつの間にか置いてあった。
隙なしってか。腹立つ。
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