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「夕飯できたぞ」
戸のむこうから声をかけるが反応がない。強めにノックしても応答なし。寝ているのだろうか。
覗くと、霧島は壁に寄りかかっていた。ヘッドフォンで音楽を聴いている。
「入るぞ、霧し……」
凍りついた。
僕と同じ顔には何の表情も浮かんでいない。漏れ聞こえる軽快なメロディーがあまりにも場違いだ。
ピクリと、霧島の指が動く。
目が合った。
冷えきった泥で満たした瞳が、ゆらりと揺れる。飲み込まれる。
「……ああ、ユイさんですか。気づかなくてすみません」
緊張が解け、ぐらりと足元が傾ぐ。壁に手をついてどうにか体を支えると、ヘッドフォンを外した霧島が隣に来た。
「大丈夫ですか?」
「平気。ただの目眩い」
動揺を悟られないように素っ気なく言うと、霧島が微笑む。異様な空気は綺麗にかき消えていた。
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