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2.異常
二日目。
ふかふかの布団で眠って、目覚まし時計の音で目を覚ます。
そのはずだった。
「なん……だ、これ」
ガタンゴトンと、電車が遠ざかってゆく。
さびれたホーム。真っ青な空。ギラつく太陽。揺れるグレーのジャケットと赤いストール。
「……これは、夢?」
僕が思ったのと同じ言葉を、同じ顔をした男が呟く。表情もたぶん同じ。鏡を見ているようだ。
目が覚めたというより、気づけば駅に立っていた。目の前にはスーツケースを持った霧島涙がいる。
まるで、昨日の再現だ。
「……これは僕の夢だ。霧島、あんたも僕の妄想だろ」
声が上擦る。冷や汗が流れる感覚がやけにリアルだった。
霧島は無言でスーツケースを開き、中からチョコレートの缶を取り出した。冷蔵庫に入れてあるはずの霧島の手土産。
ついで、カッターを取り出す。キチリと軋んだそれで、自分の指を切りつけた。
「何やってんだよ馬鹿!」
慌てて取り上げるが、傷口から鮮やかな血が溢れ出す。僕はハンカチで霧島の指を縛った。……昨日と同じ、紺色のハンカチ。
「……痛いです」
「指切ったら痛いに決まってるだろ」
「そうじゃなくて。夢にしては生々しいんですよ。そもそも、二人同時に同じ夢を見るなんてこと、有り得ます?」
「……じゃあ、何だって言うんだよ」
霧島は困ったように首を傾げ、笑った。
笑ったのだ。こんな状況だというのに。
唖然とする僕を残して、さっさと歩き出す。我に返り、先を行く霧島を追った。
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