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「おはようございます、お嬢様。今朝はいかがなさいますか?」
命令に従い、決まった第一声を吐く。状況は把握しているが、再起動時の約束動作なのだから変えようもない。けれど当然、貴女は皮肉たっぷりに「こんばんは、ただいま、カレー出来た?」をさながらピッチング・マシーンが如く連続で投げつけてくる。
「10分ほどお待ちいただけますか? もう少し煮込みたいところですが、温めて食べてしまいましょう。お嬢様は先にお召替えを」
「うん、そうする」
冷やかな返答が胸に痛い。こればかりは致し方ないが、今度、改造屋にでも改良を頼むとしよう。
今月に入ってから燃料切れで止まってばかりいる。初めは稼働半年で起こるようになった症状だが、所有者の手を渡るたびに間隔が短くなり、今回で3ヶ月を切ってしまった。
キスに込められる愛が少なからず薄れているのは確かだろう。だが、それだけにしては減り方がおかしい。売り出される前の点検で、燃料タンクに異常がないことは確認済みだから、これが故障によるものとは考えにくい。となると燃費の悪い原因は何だろう?
「……いつもありがとうね」
「光栄至極に存じます」
どれに対しての労いかは分からないが、反射的に応えた。たったそれだけのやり取りに、幸福指数の上昇を検知する。そうか、これは――
「カレー、美味しいよ」
続く言葉に笑顔を返す。貴女がそう仰るのなら美味しいのでしょう。出来ることなら、私もご一緒に食したかった。
[キスから始まるAIもある/了]
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