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先生はちょっと恥ずかしそうにサラサラした栗色の前髪を掻き上げる。
そのいちいち可愛い仕草があざとく見えると言ってるんだけど…
それから先生は綺麗な瞳で私を真正面から見つめ、真顔で言う。
「でも南条さんは『いいな』と思った」
不意に先生が言ったので、今度は私が眼を見開いた。
『いいな』って…何?
ふとあの日の
『君、いいね』
の言葉とキラキラの笑顔がリプレイして、思わず胸が高鳴る。
「相手の言うこと、理解してあげようとしてたでしょ?
分かんなくても一生懸命聞いてあげる、そういうのが俺、大事だと思ってるわけよ?」
(…ん?)
「英語で困ってる人いろいろ見てきたけど、そういう感覚は意外と誰でも持ってる訳じゃないから。
だから南条さんのことは『いいな』と思ったんだ」
その『いいな』…?
(やだ、私今何期待した…?)
一瞬の浅はかな妄想に恥ずかしくなる。
それとも敢えてのこういう言い方をしてるのか?
先生は私の動揺を知ってか知らずか続ける。
「逆に、聞くのとか喋るのとかは、後から全然勉強出来るからね。
だから今は答えてあげられなかったことは気にしなくていい。それはさ…」
先生は一度言葉を切り、私をもう一度その水晶が煌めく鳶色の瞳で覗き込んで言う。
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