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揺花は高1の時に映研に入部した。
当時から揺花は私を含めて周りに『英語のスキルアップのため』とそれを説明していた。
でも、一部の同級生の間では
『揺花は顧問の宇都宮が好きで入部した』
と噂されて、それを揺花は酷く嫌がっていた。
揺花が嫌がっていることも分かっていて、今日はそれを敢えて口にした。
夏休みの合宿の解放感?
自分の話を誤魔化したいというのもあったけれど、『教師に恋する』という云わば禁忌を侵す揺花の本心を聞いてみたいと今日は思った。
「でも宇都宮のことは好きでしょ?」
宇都宮は揺花と私が中1の時の担任で、その後も中学の3年間、私たちの学年の英語を担当していた。
年齢は30歳前後。銀縁の眼鏡が印象的なスマートなインテリタイプ。
揺花が好きになったのが先か、入部したのが先かは分からない。でも、揺花が宇都宮を見る眼、話す時の態度、そんなものをずっと見てきたから宇都宮を好きなことは間違いないと確信していた。
「…いつ気付いたの?」
諦めて揺花が溜め息混じりに重い口を開く。
「いつかな?なんとなく」
夕空を見上げながら続けて尋ねる。
「告白するの?」
私の言葉に揺花は首を振る。
揺花のくるんと毛先が巻いた癖っ毛がふわふわと揺れた。
「卒業する時には?」
揺花はもう一度首を振る。そして、
「先生には私なんかよりもっと素敵な大人の女の人が似合うと思ってる」
揺花は切なそうに微笑むと俯いた。
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