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校長先生の話が終わって着離任式が始まる。
三年の私たちにはあまり関係ない。
毎年三年は受験生担当のベテランの先生が担当するのがお決まりだから。
私は退屈しのぎに足元窓から外を見る。
隣の新校舎をバックに舞い散る桜の花びらが時々ふわりと舞い込んでくる。
綺麗だな、なんてぼんやり思っていた時、突然講堂内に生徒たちのざわめきが起こった。
(?)
皆の視線を追ってステージの上を見上げる。
と…
どきん、と衝撃が胸を打った。
そこには、まるでそこだけ光を纏ったかのような美しい男の子の姿。
春休み、駅で出会ったあの美しいバイリンガル王子様だった─
(え、えぇ、えぇー!?)
「ちょっとカッコいいよね?」
「どっちかって言うと可愛い系じゃない?」
皆がひそひそやっている。
でも私には高鳴る胸の音に掻き消されて、周りのざわめきなんて聞こえなくなっていた。
(な、なな、なんでここにっ!!)
思わぬ出来事に混乱する頭でステージ上の彼を見つめる。
白い肌、大きな瞳、栗色の髪。
間違いなく彼だ。
インクブルーの上品なスーツ姿の彼は近くで見るよりもずっと等身が高く、スタイルが良い。
教頭先生に紹介され、彼は恭しく頭を下げた。講堂に生徒たちの溜め息が漏れる。
彼は我が校の英語の新任教師だった。
名前は初原昴。
まさか再会するなんて思わなかった。
しかもこの学校の教師として。
更にあの風貌。
とても社会人には到底見えない可愛いビジュアル。
あまりの衝撃に、私は式の後どこをどう歩いて教室に辿り着いたかも覚えていないくらいだった。
呆然としたついでに揺花に思わず口走る。
「新任の初原先生ってさ、ちょっと可愛いと思わない?」
揺花は驚いた顔で私を見て、
「舞奈がそんなこと言うなんて珍しいね」
と笑った。
確かにそうかも。私、男の人ってあまり興味がない。
でも先生は別格。だって本当に可愛いんだもの。
でも…
本当は可愛い顔してさらっと人を助けられる、そういう人だということを私は、私だけは知っているんだ─
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