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私は、柔らかな光の中でまどろんでいた。
ふかふかのベッドに、ふかふかの枕。枕もとの時計は午前10時を指している。予定より1時間の寝坊だ。ベッドから降りてバルコニーへ向かう。カーテンを開けると、眼下に青い海と白い砂浜が広がっていた。
「この別荘を買ったのは正解だったな……」
カーテンをふわりと揺らして、爽やかな風が部屋の中を駆け抜ける。初夏の日差しが心地いい。
「あなた、起きたの?」
キッチンから妻の声が聴こえる。
「ああ。いま起きたところだ」
「いつまで寝てるのよ。お寝坊さんね」
「すまない。昨夜はちょっとはしゃぎすぎたよ」
「椅子に掛けて、少し待ってちょうだい。いまスープを持っていくわ」
妻は女優をしている。素晴らしい美貌とスタイルの持ち主だ。女優というと浮世離れした人物だと思われがちだが、妻は驚くほど家庭的な女性で、休日は手料理を食べさせてくれる。
「お酒の飲みすぎは体によくないわ」「もっと野菜を食べないと」と少し小言が多いのがタマにキズだが、それも私の健康を気遣ってくれてのこと。気立てもよく、私には過ぎた女性だ。きっといい母親にもなるだろう。
「さ、スープができたわよ。パンとフルーツはここに置くわね」
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