○○日目

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『本日の選択をしてください』  堅い声が今日も白い部屋に投げ入れられる。無機質で一様に代わり映えのしない空間に。  目の前に浮かんだのは二つの単語だった。ここ最近は手馴れたものだ。どれを捨てようかと計算する。  この間一日を捨てたことで空腹に襲われ、ろくにゲームを楽しめなかった。スマートフォンを握り締めたまま一日を苦痛に過ごす羽目になった。壊さなかったことが行幸と言えるだろうか。 『仕事』 『地位』  遠慮なく仕事を捨てようとして、待てよと考えた。  前回は休日だったから捨てられた一日だ。でも仕事を捨てたら、また探さないと食べるものがなくなる。  ならばいらないものはなんだろう。地位だ。  通路が開く。スマートフォンを握って、電源を入れた。  画面を起動する。部屋の壁にかけられた粗末なスーツを着込んで街へと出た。小さな商社に出社するなり、地位は降格していた。目に見えて業務へのやる気が見えなかったからだときつく叱責を食らった。  当然だろう、自分が捨てたのだから。自分が必要なのはこの空間ではない。ただ仕方なく務めているだけだ。また次の職業が見つかればおさらばだ。どこに問題がある。  減給まで言い渡されるならその時はまたいい場所を探せばいい。自分が求めているものはここにはないのだから。
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