○○日目

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『本日の選択をしてください』  堅い声が今日も白い部屋に投げ入れられる。無機質で一様に代わり映えのしない空間に。  目の前に浮かんだのは二つの単語だった。今日はどちらにするかと、両手を振り回せる程度にしかない四角い箱の中で吟味する。  前回は地位を捨てた。そのために減給されてしまった。ゲームの中でほしかったもののために食事を削ったが、いかんせん体は機械のようには動けないと文句を垂れてくる。  ならば今日の選択はどうするか。もう明白だった。 『仕事』 『健康』  健康を捨てた。そもそも健康は持っているものだ。多少風邪を引いたって、仕事を残すしか今は道がない。金がないと結局はゲームにものを注ぎ込めない。ゲームがあってもなくても、仕事をしなければ生きられないのだから。  通路の向こうへと出る。今日もスーツを着る。込み上げてきたムカつきに瞠目して、即座に自室を飛び出した。  廊下の脇のトイレへと駆け込む。何も入っていないはずの胃からこれでもかと黄色い液体が吐き出される。むわっと立ち昇る臭気がまた喉を開かせ、容赦なく空っぽの内臓からものを吐き出させた。  選択を、しただけだ。いきなりこんなに崩れるなんてどうなっている。  それでも仕事にはいかないと、どうしようもない。冷蔵庫は空だ。最初に捨てた選択のせいで、食材はそこになかった。  あの時は確か、『食事』か『趣味』で、趣味を取ったのだ。  恥を捨てるつもりで、ひとまずトイレットペーパーで口を拭った。水を流して、改めて口をゆすぐ。  吐き出した水がどうにも臭く感じる。また胃液が出そうになる。  仕方がないので、家を出るなりすぐにコンビニへと寄った。食べ物を探す。ゼリー状の栄養補給剤さえあれば凌げるだろう。最近それしか口にしていない気もする。  ほかに何か食べたほうがいいだろうかと見渡した。レジ近くに鎮座する平たい物体に目が留まった。  ああ、そういえば昨日ゲームで新作のキャラクターが出たのだ。あのキャラクターがほしいと、随分課金をした。それでも出なかったのだ。  給料日まで後十日。残金はまだ余裕があったはず。クレジットでは感覚が狂うから、こういったカードで購入して調整するか。  カードを手に取った。金額は一万を選んだ。  ゼリーを手に取っていたが、棚に戻してそれだけを買って出た。  どうせ吐いた後では胃は何も受け付けないだろうから。
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