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『本日の選択を記入してください』
堅い音声が今日も白い部屋に投げ入れられる。無機質で一様に代わり映えのしない空間に。
目の前に浮かんだのは二つの単語だった。ただただ呻いてそれを見やるばかりだった。
健康を捨てたせいでただいま病院に連日通っている。仕事も地位が落ちたせいで課金どころの話ではなくなった。だがゲームでずっと保っていた首位を他人に明け渡したくもなく、時間を削って張り合っている。
だが、この選択肢はどうしようもないのだ。
『仕事』
『趣味』
仕事をしなければ課金もできない。いやそもそも病院代すら出せない。毎日ふらつくようになった体では仕事などろくにできてもいない。変わらない。だがそれでも生きるためにはしなければいけないのだ。
しかし仕事をしていた理由だって、突き詰めれば趣味のためじゃないか。ゲームのためじゃないか。
趣味がなくなるのなら何のために仕事をしてきた。自分のため? いや趣味がなくなったらそれも意味がない。
それにもう職場では地位も落ちただけではなく、話せる相手だっていない。仲良くなろうと思ったことだってないし、自分の時間がほしかった。味方がいない場所で一々時間を取られるのももううんざりだ。
そうだ、他に何がいる。自分が最初から欲しがっていたのはこれじゃないか。
仕事を、捨てた。
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