○○日目

5/12
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
『本日の選択を記入してください』  堅い音声が今日も白い部屋に投げ入れられる。無機質で一様に代わり映えのしない空間に。  目の前に浮かんだのは二つの単語だった。ただただ呻いてそれを見やるばかりだった。  健康を捨てたせいでただいま病院に連日通っている。仕事も地位が落ちたせいで課金どころの話ではなくなった。だがゲームでずっと保っていた首位を他人に明け渡したくもなく、時間を削って張り合っている。  だが、この選択肢はどうしようもないのだ。 『仕事』 『趣味』  仕事をしなければ課金もできない。いやそもそも病院代すら出せない。毎日ふらつくようになった体では仕事などろくにできてもいない。変わらない。だがそれでも生きるためにはしなければいけないのだ。  しかし仕事をしていた理由だって、突き詰めれば趣味のためじゃないか。ゲームのためじゃないか。  趣味がなくなるのなら何のために仕事をしてきた。自分のため? いや趣味がなくなったらそれも意味がない。  それにもう職場では地位も落ちただけではなく、話せる相手だっていない。仲良くなろうと思ったことだってないし、自分の時間がほしかった。味方がいない場所で一々時間を取られるのももううんざりだ。  そうだ、他に何がいる。自分が最初から欲しがっていたのはこれじゃないか。  仕事を、捨てた。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!