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『本日の選択を記入してください』
堅い音声が今日も白い部屋に投げ入れられる。無機質で一様に代わり映えのしない空間に。
目の前に浮かんだのは二つの単語だった。いや、別に選択肢として与えられたものではなかった。
『現実』
『現実』
ああ、そういうことか。
もう手足は動かせない。細りきった手足には熱さしか感じない。寒さが来ることもあった。
川のほとりで眠る回数も増えた。それでもスマートフォンは手放さなかった。
それももう、ついにできなくなったということか。趣味は切った覚えがないのに、いつの間にか選択肢にも浮かばなくなっていたのだろうか。
『本日の選択を記入してください』
堅い音声がもう一度投げ入れられる。無機質で一様に代わり映えのしない空間に。さもここがゴミ箱ですと言わんばかりに。
皮肉すぎて、哄笑が溢れた。
別にいい。ゲームだってもうできないんだ。スマートフォンの電源が入る方法をずっと探していたが、ショップに行っても追い出される。公共の充電の場所に行っても目をつけられる。雨に濡れてただの箱でしかなくなったのだ。
別にいい。後悔なんて……
外から音が聞こえる。聞き覚えのある音楽だ。いや、それに音声も混じっている。この声優を知っている。
思わず顔を上げた。このゲーム、もしかしなくとも自分がやっていたあのタイトルではないのか。
新作の単語が聞こえた。まさか、まさか。
『本日の選択を記入してください』
堅い音声で音楽がかき消される。無機質で一様に代わり映えのしない空間に。さもここがゴミ箱ですと言わんばかりに。
いやそんなことはどうでもいい。ここから出せ、またゲームが始まるんだ。自分が今まで注ぎ込んできた金がやっと実ったんだ、ここから出せ、ゲームをしたいんだ!
『本日の選択を記入してください』
そんなこと知るか、自分はこの時のためにここまで身を削ったんだ、やる権利がある、選択など知ったことか!
ここから出せ!
『本日の選択を記入してください』
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