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今日も雨は降る
僕は移り気だ。いろんな人にいろんな感情を与えることだってできる。
嫌いな人もいれば、好きな人だっている。
気ままに、雲が流れるがままに身を任せて旅をしているようなものだ。誰かの元にい続けることなく。
その日も雨だった。一人の少女が降り注ぐ雨粒を嫌がることなく全身で受け止め、眺めている。傷心なのか、ただそうしていたいだけなのか。僕には人の気持ちなんて分からないけど。
だけど何故だろう、彼女の瞳はすごく、綺麗に見える。雨に濡れて曇天を見あげる人は大抵瞳の奥まで曇っている。けれど彼女の目は、口は、笑っていた。
僕は、彼女の瞳に映る雲を、黒くした。ただの意地悪だ。だけど彼女は目を閉じて、それを受け止めた。
そして彼女は言った。こんな僕のことが好きだと。だけど僕は移り気なんだ。もうそろそろ君の元を離れることになる。
でもね、今日はまだ、留まってる方なんだよ。ひどい時は激しく翻弄して残り香をつけて去っていく。
嫌な奴さ。
それでも、少女は笑っていた。
僕がいるから、花が綺麗に咲くのだと。
僕はどちらかと言えば嫌われ者さ。だから、君みたいなこと言う人は大抵、変わっている。
だけど君の言葉はなんだか悪い気がしない。
今日はもう少し、ここに留まろう。
優しい雨粒として、君を潤す僕は移り気で、次の瞬間には風に煽られて去っていく。
そうしたら、君はどんな表情を見せるんだろう。少し、気になるな。
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