世界に歯形を残したい

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世界に歯形を残したい

 直人(なおと)に別れたいと告げたとき、彼はとても驚いた顔をした。 「どうして?」  何度もそう聞かれた。でも、私は理由を言いたくなかった。  だって、彼に理解出来るとはとても思えなかったから。  直人はとても優しい人だった。  よく笑い、よく話す人。それが彼に初めて会ったときの印象だった。 「沙希(さき)ちゃん、今度一緒にご飯どうかな? 友達に美味しい店教えてもらったんだ」  誘いの言葉はありふれたものだった。けれど、それすらも彼の誠実さの表れだと思った。  そして、食事をともにしたその日から、私は彼と付き合うことになった。
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