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後ろで疲れ切っているハボックをよそにして、リリーは辺りの景色を流し見る。
森の中は相変わらず昼の木漏れ日の一つもない。それ以外に目立つ明かりといえば、森の奥とは反対に見える平地より差し込む日の光だけだ。ただ、その明かりもここまで来たらいよいよ頼りがなくなってきている。まだ差し込んでいるだけいいが、この先に進んだ後の暗闇はどうしたものか。
「…まぁ、行ってみるだけ行ってみましょうか」
そう言い、リリーはハボックを引きずる腕を放すと、彼を背負い上げ、足元に広がる雑草を踏み倒して暗闇の中へと進む。
もし、リリーと同じ年の子供がこの場所にいたならば、きっと泣き喚いてその場にいない両親に助けを請い求めるだろう。それこそ今のハボックのように癇癪を起こして。
けれど、リリーには村で言い伝えられていた森の恐怖よりも、何かに脅かされるという不安よりも知りたいことがこの森にあった。
だから、リリーは突き進む。自分の興味と好奇心を胸に、満足のする答えを求めて。
――@――
もうどれくらい時間が経ったのか、いや、まだそんなに時間は経っていないのだろうか。森の中を突き進むことだけに集中していたら、時間の感覚さえも分からなくなってきた。加えてこの暗闇だ。さっき森に入った時はまだ真昼で、空を見上げればそれがよく分かったものだが、日の光の一つも通さないこの中では時間を把握する簡単な手段すらない。
荒れることのなかったリリーの息が、はぁ、はぁ、と小さく息を漏らし始める。
後ろで大きな抵抗を見せていたハボックも、あれからは抵抗の一つも見せてはいない。ただだらりと力なく手足を垂らしたままリリーに背負われている。
心なしか、寝息のような音が聞こえてきていることに関しては触れないでおこう。
「まったくっ……のんきなものね……!」
ふんっ、と一息、リリーは大きな声を出しながらハボックを背負う腕を組み直し、もうほとんど暗闇しか見えない森の中を突き進む。
「はぁ……はぁ……そろそろ限界近いかな……」
リリーの足がよたつく。転びかかる。こんな暗闇しか見えない場所で転んでしまえば、下手をすれば見えていない何かで怪我をしかねない。
「……歩けなくなったら、最期かな」
そんな冗談にもならない事を言いながら、リリーは薄笑いを浮かべた。
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