Ep.3 森の中で――。

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 圧倒的な速さで追い抜いてきたその“光”を前に、二人は呆然と立ち尽くす。  甲高い声がしたかと思いきや、声は目の前に留まるその”光”を発している“何か”が口を動かし喋っていた。 体は大人の人間の手のひらぐらいの大きさ。頭はまるで遊びでよく作った泥団子のように小さく、その顔にはゴマ粒のような小さな黒目がぽつぽつと二つ。 そして何より目を惹かれるのが、その背中より生えた蝶の羽だ。見る者を惑わす美しい光彩と光沢、そして絶妙に美しき模様。 その姿はまさにおとぎ話で語られる“妖精”そのものだった。 「妖精……っ!」 「ふぇええええっ!?」 「何さ人を見世物でも見るような目で。いや、ボク人なんかじゃないけどさ。ていうか、なんで人間の子供がこんな所にいるんだよ」  妖精はこちらを覗くようにして頭を傾げ、じっと二人を見つめる。 「まぁ、いいや。間違って入っちゃったんだろうね。子供だし。出口が無くて困ってるんでしょ? 教えてあげようか?」  悪戯っぽく笑うと、妖精はにこりと顔を二人に向けた。 「えっ……本当っ!!」  突然現れた存在(ようせい)に戸惑ったが、その言葉を聞いて思わずハボックは声を出した。 ――――”黒茂ノ森”から出られるかもしれない。  有無を言わさず友人に連れてこられて、気が付けばこんなにも暗い森の中に来てしまっていた。出口も分からず、どこに向かっているかも分からない。このままでいては、村で言い伝えられる”森の魔物”に本当に食べられてしまうかもしれない。と、ハボックは不安で仕方がなかった。  そんなところにおとぎ話で語られる妖精に偶然に出会って、助けてもらえるなんて。なんて運がいいんだろう。  そう思い、ハボックは妖精の方へと歩み寄った。 「本当さ。ここは広いし、明かりも無いからね。出るのも大変だろうに……ぐぇっ!?」  だが妖精に近寄ろうとするハボックよりも早く、リリーが妖精の体を瞬時に手掴んで、力いっぱいに握った。
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