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少年に先導され、村の奥へと進む中でハボックは思った。
歓声が上がっている。いや、奇声と言ってもいい。先ほど、少年は“いわい”だと言っていたのだから、村人たちはきっと何かに対して喜んでいるのだろう。
だが、狼の背から下りてそれから、今も周りから上がっている村人たちの声は喜んでいるというより、心なしか、とち狂った人間の叫び声のようにしか聞こえない。
本当に喜んでいる動作なのだろうかこれは。皆が皆、被っている不気味な面も相まってその姿がより一層不気味に思えてくる。
(こ、こわい………………)
藁と木材を合わせて作られた三角の物体の間を、ひしひしと辺りに集まる村人たちの視線を受けながら、ハボックは少年の後ろをついて行く。
後ろからぞろぞろとした足音が聞こえてくるが、あまり気にしないでおこう。
(どうして、みんなついてくるのかな……)
例え見えていなくても、聞こえてくる足音の数からしてかなりの人数が後ろをひしめいているのが分かる。黒い素肌を晒した不気味な面の住人の群れが、今も自分の後ろをついて来ているという光景を想像しただけで、なんだか怖気が立ってきた。
(考えないようにしよう……)
ハボックは硬く唾を飲み込む。
それにしても村に入ってから、まるで嗅いだことのない臭いがさっきから辺りを漂っている。乾燥した藁草の臭いと、何かの温溜まった独特な臭い。村のあちこちに煙が上がっているので、大体はそれの臭いだろう。炭の燻った臭いも混じっている。藁草は見た感じ、この三角からの臭いだ。三角の横を通り過ぎる度に臭いがする。
けれど、なんだろうか。もう一つ独特なクセのある臭いが混じっている気がする。
だけどそれがなんなのか、例えが上手く見つからない。
「とまれ」
「……!」
考えているうちに、前を歩いていた少年が四本の指の片腕を上げて静止を促してきた。それに従ってハボックもピタリとその場に立ち止まる。
気がつけば、周りを埋め尽くしていた三角やそれに似た物体がなくなっている。目の前には草木がなだらかに広がる拓けた空間。その行く末に、大岩の一つ二つを飲み込むようにして、根本が交わった黒っぽい色の大樹が生え立っていた。
そして、その大樹の手前には村人の一人らしい面の男と、同じく面をして杖を持つ老人らしき人物が立ち尽くしていた。
「シャカム!」
少年はそう叫ぶと、ハボックをその場に残して大樹の前の二人の元へと駆けていく。
二人の前に躍り出るや、少年は杖を握った老人に対して何かを話し始めた。一方で老人は少年をじっと見つめて、話す内容を静かに聞いている。
少年の声はこちらまではっきりと聞こえてきているが、だがやはり、言っている言葉はよく分からない。
(なにを話してるんだろう……?)
とりあえず、少年が老人に話す様子を眺めて待った。近づくのも気が引けるし、変に行動を起こすべきでもない。
そのうちに話が終わり、老人が少年と男を連れてゆっくりとこちらへ歩いてくる。
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