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EP.20 新たな事実――。
さ
リリーが目覚めてから数時間。主人とリリーは森の中を移動していた。相も変わらず、主人はスタスタとした足取りで先導をきっており、その少し離れた後ろをリリーがついて来ている。
「……」
主人の背中にリリーの視線が静かに向けらりる。先を行くその姿は堂々としており、足が止まる気なんて微塵も感じられない。
……こちらに話しかけてくる様子も。
あれから、主人とリリーの間に会話が生じることはなかった。二人で森の中を歩いてしばらくするが、一切の掛け合いも起きてはいない。無言で森の中を進み続けている。
――最後に会話をしてからどのくらいの時間が過ぎたのか分からないけれども、主人とのこの気まずい空気を何とかしたい。せめてマシな状態に。
と思い悩み、声を掛けてみようと主人の背に目を向けては時機を伺っているが、今に至るまでリリーは行動を起こせずにいた。
(くっそ、何て声をかけたらいいの……ていうか、何て声のかけづらい状況なのよ……全く埒が明かない……あぁもう、イライラする……)
主人の背に目を向けたまま、リリーはムスッと顔をしかめる。つくづく彼について思う事だが、こんなにも扱いづらい相手は初めてだ。癖の強い両親や村の大人たちの方がまだ扱いやすい。自分と同じ歳の子供たちと接する時はまだ難しいと思う事があったが、主人とのこれはそれを遥かに上回って難しいと感じる。いや難しすぎる。
(……諦めたほうがいいかな。逆に声をかけて、さらに関係が悪くなってしまっても困るし……これでちょうどいいのかも)
最後にもう一度彼の背中を見て、はぁ、と大きく息を漏らし、主人に声を掛けることをリリーは諦めた。
「おい、小娘」
「!?」
と、諦めた矢先に主人から声が掛かった。なんたる事態。なんたるタイミング。
「え……なに?」
「体の調子はどうだ。倦怠感、疲労、何か感じるものは?」
――……え、このオッサンが私に心配……? 何の冗談だ?
さっきの今で、全く会話が起きないまま無言でここまで来たというのに。今さら、しかも主人から声をかけてきて心配をしてくるという始末。
冗談だと思えて仕方がない。いや、本当に冗談なのかとさえ躊躇う。これは素直に返事を返すべきなのか、それとも冗談めかしいと一笑するべきなのか。いや待て。この主人に冗談なんてそもそも通じない気しかしないし、もしも一笑して返したとしたらそれこそ主人の不機嫌を買いかねないような気がする。さっきの出来事の後ならば、こちらもまだ気まずさを纏って黙っているのが無難なのでは……?
……だが、さすがに何も答えないのもまた険悪な空気になりかねない。
半疑ながらも、リリーは主人に返事をする事にする。
「……いえ、特に何もないけど」
「……何もか?」
「え?」
リリーの言葉を聞くや主人は足を止めて、こちらに振り返ってくる。急に向き合って来られたので、咄嗟にリリーも足を止めた。
「つい先ほどまでお前は弱り切っていた訳だが、本当に何も無いのか?」
「何よ急に……ここに来るまで声の一つも掛けてこなかったくせに」
「文句はいい。質問に答えろ」
……いちいち癪に障る言い方をする。彼から声を掛けられることになって、できるだけさっきのような対応はしない様にと思っていたが、やはり何かとイラっと来る。早まるな、自分。落ち着いて対処しろ。
「……何も無いわよ」
「本当に?」
――イラッ。直後、リリーの眉間にシワが寄る。
「無いって!! 何度言わせる気!?」
――……あ、しまったうっかり怒鳴ってしまった。
抑えていたのに、つい癖で怒鳴ってしまった。心配になり、ハッと我に返って主人を見ると、予想に反して、主人は顎に手を寄せて考えるだけで不機嫌になる様子にはなっていない。
(……よかった? けど、なんなのさっきから……)
なんだかまたややこしい状況になっているような。ついさきほどの状態を何とかしたいと思っていたので、ある意味この状況は望んでいた事だが……それにしてもやり辛い。
しばらくすると、考えるのを止めて主人もこちらに向き直ってきた。
「もう一つ聞こう。お前が目覚めてからここまでの道のり、辛くはなかったか?」
「……はい?」
「単純な話だ。この森の中、進み続けて軽く一里二里は超えている。お前を見るに、この距離を歩いてきて息一つ上がっていないようだが、疲れてはいないのか?」
「っ!」
……そういえば、気まずい空気を変えたい一心で特に気にしてはいなかったが、確かに。主人の言った通りだ。ここに来るまでに疲労はおろか、息一つ上がっていない。
「全くない……」
「やはりそうか」
「……え?」
「まだ確実に何がどうと言える訳ではないが、お前のその身体、おそらく多少なり”変異”しているな」
――――………………え???
「何かしらの”兆候”は見られるとは思っていたが、おそらくは突然の昏倒もそれに類する。今のところ衰弱しきる以外には身体能力の向上もその一つと言ったところだろう」
――――…………待って???
「だが、何にせよ”それだけ”とは油断はできんな。急激な身体変化による負荷が一度で済むとは思えん……早いうちに手立てを考えなくてはならないか……ふむ、もしまた体に異変が見られたら教え……」
「ちょっと待って!! へんいっ!? ”変異”って何!!!??」
――@――
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