第一章 『花びら落ちた』

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「別に、気を使わなくてもいいのに」  ボソッと言った言葉は、この静けさだから、きっと鳰都の耳にも届いただろう。  結局、その後は何も言わずにアパートの前まで来てしまい、鳰都はペコペコ頭を下げながら外階段を上ってゆく。 「鳰さん」  俺が呼び止めると、振り返り気まずそうに笑われた。笑顔が思いっきり引きつっている。 「あ……おやすみなさい。また、どこかで」 「あっ……はい。また。お……おやすみなさい」  慣れないな、でも、“また”だって。  ──桜が散ってしまった季節に、俺達はこの街で出会った。
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