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4月とは思えぬ陽気の中、それぞれが自分の種目にエントリーして競技を行っている。
「高柳さん、10秒39。星島君、10秒86」
一人、ゴール地点に立っていたマネージャーのミキちゃんがタイムを読み上げた。
10秒86というと、インターハイでもせいぜい決勝7位というところだろう。
むろん、インカレの参加標準記録にも届かない。
(ふう…)
頭のてっぺんからつま先まで、どこにも悪いところはない。
コンディションはいたって普通で、別段、体調が悪いというわけでもない。
要するに、これが実力で、僕はそんなレベルの選手なのだった。
「そこどいて。次の人来るから」
長髪をかきあげながらミキちゃんは冷たく言ったけど、それはまあいつもどおりだ。
トラックの上から外の芝生のほうへ、僕は歩いていった。
遠くのほうでロングジャンプをしているのが見えた。
参加人数の少ない投擲系の種目は、トライアルをすべて終えたようだ。
絹山大学陸上部の、肩口に赤いラインが入った白いジャージを着る。
トラックは、内側のレーンを中長距離チームが。
外側のレーンをスプリントチームが使っていた。
スタートしたばかりの1500mの選手たちが、すさまじいスピードで目の前を駆け抜けていった。
「星島、お前相変わらずスタートひでえな」
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