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この海にまた会いに来た。
何度目かはもうわからない。
海岸線が見える。
少しだけ風が吹いているが、海は穏やかなままだ。
かっては、海沿いを、列車の窓から眺めていただけだった。
そのために、海岸線を通る列車にわざわざ何度か乗った。
この海に会いに来ても、それで救われることはない。
ただ、会わなくてはいけない気がして、この海に会いに来る。
海の向こうは、シルバーに光っているように見えたが、それは気のせいかもしれない。
本当はシルバーではなく、曇天の空が灰色に染まっているだけだった。
その曇天の灰色が、私には相応しい。
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