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「わたしたちが、息をしたり、歩けたり、喋れたりしてるのって、何でだと思う」
それは小学四年の時、夏休みで、プール開きがあった期間のことだ。
自習用に、ということで教室の鍵は開いていたので、プールで遊んだ後、私たちは教室に集まり、お弁当を食べていた。
最初に、マイがそう言ったのが、月曜日のお昼のこと。
「何でって、そういえば、何でだろう……?」
私が聞き返すと、マイはえっへんと胸を張り、答えた。
「わたしはね、わたしたちが、『それは出来て当たり前っ!』って信じてるからだと思うの」
「じゃあ、信じてないと、出来ないの?」
「そうよ。だから、歩けなかったり、喋れなかったりするひとがいるのよ。その人はきっと、お腹の中にいるときに、『歩けるかな?』『喋れるかな?』って疑ったんだと思う」
マイは昔からよくわからないことを言い出す子で、そんなに頭の良くない私には、いまいち何を言ってるのかわからなかった。
ただ、そんなことを言ったら、歩けない子や、喋れない子がかわいそうじゃないかな……と何気なく思っていたら、隣でもぐもぐハンバーグを食べていたサクラが、ごくりと呑み込んでから声を上げた。
「なんかティンカーベルみたいだね。信じてないと、いないってやつ~」
「? 何それ」
マイが眉を寄せれば、サクラはもう少し丁寧に言い直す。
「ティンカーベルはいる! って思えば、ティンカーベルはいるの。でも、いないのかな? って疑うと、いなくなっちゃうの」
「あー、信じてるかどうかで決まるってこと? 神はいる! と思えばいるし、いない! と思えば消えちゃう……みたいな」
マイが尋ね返せば、サクラはうんうんと頷く。
不思議な話だ。信じているかどうかで、何かが変わるなんて。
「あ、」私はふと思い出す。「でも、跳び箱の時ってさ、とべないと思ってたらとべないけど、とべる! って思ってるといけるよね。それと似てるのかな」
「あぁ、そうだね。似てるかも~。私は怖くて、なかなかそう思えないんだけど」
運動音痴のサクラが身を小さくしながらそう言う。
「じゃ、わたしたちが出来ないと思ってることも、信じたら、出来たりするのかなぁ」
サクラがにっこりと笑んで、言った。
そして、私は思いついたのだ。
「――空を飛ぶ、とか!?」
二人の目が、キラキラと輝いていた。
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