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そして、金曜日。
晴れていた。青空に雲一つなく、カラッとした良い天気で、初めて飛ぶのには最高の日だと思った。
屋上は普段、施錠されていて入れない。しかし、今日は、午前と午後の二回に分けて、屋上で「空の観察デー」が開かれることになっていた。その合間なら、鍵を掛けるのを面倒がった先生が、屋上の鍵を開けたままにするのではないか――と考えたのは、マイだ。お弁当すら食べずに、昼一番に飛び込んでみれば、マイの計算通り、鍵は開いていて、屋上には誰もいなかった。
「さ、空を飛ぼう!」
キラキラした目でマイが言った。
「誰から飛ぶ?」
「みんなで一緒に飛ぼうよ! 手を繋いで」
私がそう言ったのは、万が一、私の背中から羽根が生えてこなかったとき、飛べるマイに助けてもらいたかったからだ。
二人はすぐに頷いてくれた。
「どういう順番に並ぶ?」
マイが首を傾げる。
マイの隣がいい、と言おうとしたら、先に、サクラが、
「わたし、真ん中が良い」
と言った。
まぁいいか、と私は思い直して、サクラの右に並んだ。
鞄をその場に降ろし、私たちは柵を乗り越え、向こう側に立つ。
足元に広い広い花壇が広がっていた。
「綺麗な青空だね」
サクラのひとつ隣から、マイの爽やかな声がする。
さすがマイ。慣れてるな、と私はドキドキしていた。
そう言おうとして、ふとそちらを見れば、サクラと目が合った。
彼女は少しだけ不安な目をして、私を見つめ、マイには聞こえないほどの、小さな声で言った。
「わたし、知ってるの」
「え?」
「……空、飛んだことあるんでしょ? 飛べるんでしょ」
――私が?
聞き返そうとして、言葉が喉に詰まる。
違うよ。飛んだことあるのは、飛べるのは、マイだよ。飛べるのは、マイだよ。
サクラの言いたいことがわからない。サクラはにっこりと笑い、前を向き直る。私は妙にドキドキしながら、同じように前を見た。下を見ると怖くて泣いてしまいそうだった。怖い? どうして? ――飛ぶのだから、死なないのに。死ぬ? いや、死なない。飛ぶんだから。
頭がぐちゃぐちゃして、そして唐突に真っ白になる。
「大丈夫だよ」
少し離れたところから、マイの力強い声がする。
すると急に自身が湧いてきて、視界が開けた気がした。
そう、飛べる!
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