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飛べるんだ、と確信した途端、急に背中に痒みを感じた。
真ん中に立ってたら両手が塞がっていたから、端っこで良かったな、だなんて能天気なことを思いながら、私は右手でがりがりと背中を掻いた。なんだかムズムズするような痒さで、掻いても掻いても痒みは引かなかった。
呆然と青空を見つめている三人の中、私だけが、がりがりと背中を掻き、余計な事を考えていたから、逆に『それ』に気付いたんだと思う。
がちゃり、と後ろで扉が開く音がして、私は何気なく振り返ろうとした。その拍子に、本当に何気なく、柵を掴んだ。
「飛ぼう!」
それと同時に、マイが叫んで――全身に激痛が走った。柵を掴んでいる状態で、逆手をサクラに引っ張られているから、身体が千切れそうになったのだ。しかし、すぐにスポン、とサクラの手が私の手から抜けた。
何かが落ちた。
私はそう思った。
振り返った視界の中では、真っ青な顔をした先生が、扉からこちらに駆けてきている。
私はおそるおそる横を見る。もちろん、そこにはサクラもマイもいない。二人とも、私を置いて、先に飛んでしまったのだ。
私は柵を掴んだまま、青空を見上げる。空の中に、二人はいない。
心臓の音が早くなり、息が苦しくなる。
私はそっと視線を押し下げていく。
どこにも二人はいない。飛んでいる二人はいない。羽根を広げた二人はいない。
先生の手が私の手を掴む。
無理やり柵の中へと引きずり戻されたとき、私の背中の痒みはもうどこかへ消えていた。
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