空を飛べた天使たちよ

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空を飛べた天使たちよ

 雨がバスの窓を叩いている。  何気なく車窓の外を眺めていた私は、突然目に飛び込んできた母校の小学校を見て、背中が痒くなる心地がした。手を伸ばし、降車ボタンを押す。緩やかにバスは止まり、私は雨の中、小学校の前へと足を踏み下ろした。バスが走り去ると、そこには私以外、動くものは何もなくなる。  小学校のフェンスに手をかけ、私は校舎を見つめる。  屋上と、真下に広がる広い広い花壇。  花壇には、色とりどりの花が咲いている。あの日の面影はもう、ない。  屋上は、未だに立ち入り禁止なのだろうか。  シャツの下に手を差し込み、私は濡れた手で背中を掻く。何故だか、あの日を思いだすたび、痒くて、痒くて仕方がなくなるのだ。何かが疼いてるみたいに。  あの日、私は、いろんなものを捨てた。  子供心。  または、幼さ。  あるいは――希望。  目を閉じれば、あの頃の記憶が、鮮明に蘇る。  愚かしく、どうしようもなく――『空を飛べる』と信じていたあの頃のこと。
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