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ふいに誰かがベンチに座った。見ると勇人が私の隣で前を向いている。
私も何も言わず前を見つめた。あたたかい日差しの中、明るい表情の学生たちが行き交っている。
「悪かったな。この前は」
ぶっきらぼうな口調で勇人が言った。そして頭をカリカリとかいたあと、その手で私の肩を抱く。
「なんか調子狂うんだよな。お前がいないと」
私は必要とされている。この人に。
そんな勇人に向かって、私は言う。
「今日、私の部屋に来る?」
少し驚いた表情を見せたあと、勇人が嬉しそうに答えた。
「あとで行く」
私はほんの少し微笑んで、また前を見つめる。
勇人には私が必要だ。そして私にも勇人が必要。
橘さんを捨てることはできても、私は勇人を捨てることができない。
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