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 私の家の中で、絶対的な権力を握っていたのは父だった。  そして私の母は、父に一度も逆らうことなく、黙って従っているだけだった。  私は幼いながらに、そんな母を不憫に思っていた。  父は暴言を吐くわけでも、暴力を振るうわけでもなかったが、常に母以外の女の影をちらつかせていて、それを娘の私でさえ感じ取っていたから。 「お母さんはお父さんを捨てないの?」  小学生の頃、母にそう聞いたことがある。ちょうどその頃、テレビで芸能人の離婚騒動が話題になっていて、「私は夫を捨てました」と清々しく語っていた女性の言葉が、頭に焼き付いていたからだ。  すると母は「どうして?」と私に微笑んだ。 「どうしてお母さんがお父さんを捨てるの? お母さんはお父さんのことを愛しているし、お父さんから必要とされているのよ」  それは違うと思った。母は父に服従することで、自分が父にとって必要な存在であると、無理やり信じ込んでいるだけなのだと。  けれどやっぱり私も母の子だ。成長し、見た目が母と似てきた頃、私の心にも母と同じ歪んだ愛情が、じんわりと芽生え始めていたのだ。
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