7/9
前へ
/28ページ
次へ
「おっせーよ。和花」  急いで教室の中へ駆け込む。すると一番後ろの席に座っていた勇人が、不機嫌そうに私を見上げた。 「ごめんなさい」  そう言って私は勇人の隣に腰かける。 「しょうがねぇなぁ。ほんとトロいんだから、お前は」  勇人の手が伸びて、私の頭をくしゃっとかきまぜる。久しぶりに感じる勇人のぬくもり。 「なぁ、和花。今日お前んち行ってもいい?」  私の頭に手を乗せたまま、勇人が顔をのぞきこむ。黙り込んだ私の耳元で、勇人の声がもう一度聞こえた。 「いいだろ? 和花」 「うん……」  満足そうに笑った勇人が、私から離れて立ち上がる。 「じゃ、あとで」 「え、ちょっと、待って」  講義も受けずに出て行こうとする勇人を呼び止める。 「あのっ……一週間も連絡とれないで……どこか行ってたの?」 「あ? 旅行だよ、旅行。お前に言ってなかったっけ?」  誰と? どこに? 聞きたいことはたくさんあるのに、私はそれを聞くことができない。 「じゃ、あとで行くからな」  それだけ言うと勇人は背中を向けて、私の前からいなくなった。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

60人が本棚に入れています
本棚に追加