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他の乗客は自分の世界に閉じこもるか、あるいは居眠りするかで、怪しげな男AとBに注目しているのはどうやら私だけのようだ。
あまりじろじろ見るのもなんだから、ときどき右前のサラリーマンの広げる少年誌を見た。原始時代のような舞台で筋肉隆々の男たちが戦いを繰り広げているらしかった。『進撃の巨人』に影響を受けたのか、男たちの皮膚は筋肉が浮き上がったように筋張っていた。ストーリーまではわからなかったが、漫画の想像力は大したもんだとあらためて思った。自由に新しいことをよく考えるよな、って。
それからまたふたりに注目した。怪しげな男Aはまだ何かを覗き込んでいた。怪しげな男Aのすぐ近く、少年誌サラリーマンの向かい側の手すりにもたれてうとうとしている初老の男(Z)を、別の方向を見る振りをして観察しているのかとも思ったが、定年退職間近の事務系サラリーマンっぽいその初老の男が誰かに注目される何かを持っているとは思えなかった。
怪しげな男Aは今度はスマホで LINE を始めた。それからまた、怪しげな男Bを見た。Bはうなずき、Aに向かって口を動かした。私はイヤホンをしていなかったし、これだけ近くにいるのに何も聞こえなかったから、壁男Bは口の動きでAに何かを伝えたらしい。そうとしか思えなかった。
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