最高の相棒

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 あれは、小学校一年生の夏休み。  たしか七月の終わりごろだったと思う。  まだまだ夏休みも序盤のころ、父が唐突に買ってきたのだ。  ピカピカの青い自転車を。 「うわあ! どうしたの? これ?」 「誕生日プレゼントだ。明後日、誕生日だろう?」  父は、ちょっとだけ気まずそうに、それでいて照れくさそうに答えた。  どうやら、明後日の僕の誕生日まで、庭の隅にある物置きに隠しておくつもりだったらしい。  だけど、その途中、庭を半分ほどよぎったところで、運悪くちょうど帰宅した僕と鉢合わせしてしまったようだ。  とにかく自転車を視界に収めた瞬間、僕は、肩にかついだバットとグローブを放りだして、父の元へ駆け寄った。  すると父は、自転車から手を離し、ニッコリと微笑みながら僕へと託した。  僕は、おそるおそる自転車を受け取った。  持った瞬間から、しっくりと手になじむハンドル。  ゴクリと、唾を呑む。  期待に胸が高鳴る。  真新しい自転車は、まぶしいほどに光り輝き、僕を惹きつけた。  これまで乗っていた自転車とは、明らかに何かが違う。  僕は、じっくりと隅々まで観察したあと、慎重にサドルにまたがった。  高さもちょうど良い。  ゆっくりとペダルをこぎだし、芝生の上を、ほんのすこしだけ前進した。  ペダルも軽い。滑らかに車輪が回る。  胸が躍る。 「すごい!」  歓声を上げ、徐々にスピードを上げる。  庭の芝生の上を、ぐるぐると忙しなく回転しながら、僕はすっかり有頂天になった。  そうして父も、すごく嬉しそうに、そんな僕の姿を眺めていたのを、よく覚えている。
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