虹 ― Rainbow ―

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 小さなアパートの一室に温かな明かりが灯る。 「やよいちゃん。何書いてるの?」  畳の上の小さなテーブルに置かれた、 真っ白い画用紙にやよいはクレヨンで丁寧に何かを描いている。  その様子を覗き込むサツキは思わず微笑んだ。  二人の大人が描かれ、その中央に小さな子供が手を伸ばし、 大人の手をしっかりと握っている。 「上手だね。やよいちゃん」 「うん。これがパパで、これがサツキお姉ちゃん。 それで、これが、やよいっ!」  微笑ましい家族を思わせる絵を眺めていると、 やよいはたくさんのクレヨンを並べ、一本ずつゆっくりと 新たに描き始めた。  紫、藍、青、緑、黄、…… ゆっくりと重ねられる線――。  その一本、一本を描く度にやよいは言葉を添える。 「何もないところに、何かが始まるの。 初めは気が付かなくて、 でも、実は何かが始まってるの。 泣いちゃうことや、 笑顔になること、 一つずつ忘れたいことや、大切にしたいこと、 全部重ねてゆくんだよ」  そして、橙でおおきく曲線を描き、 やよいは手を止めた。 「悪いママとパパはね。ここで、重ねるの辞めちゃったの……」  やよいは真剣な眼差しで、画用紙と向き合い、 最後に真っ赤なクレヨンを手にした。 「パパとサツキお姉ちゃんは、 きっと、きっと、 大丈夫なんだよ。 やよいには、ちゃんと見えてるんだもんっ」  そう告げるやよいは、真っ赤なクレヨンで 二人の赤い糸を引く様に、最後に曲線を力強く加えた。  紫、藍、青、緑、黄、橙、赤――  三人が手を繋ぐ仲良し家族の絵の空に描かれた、 七色の虹。  それは、サツキと洋介、やよいとを結びつける 虹の架け橋だった――。
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