Indigo  ― 藍 ―

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 まもなく17時になる頃、一本の電話が鳴り響いた。 「はい、もしもし。ニーシマーケットコーポレーション業務部担当の山崎です」 終業を迎えられるせいか、やーやんの声も軽やかになっていた。 「えっ! あ、あ、あっ、はい。在籍は致しておりますが、 あっ、あの、申し訳ございません。 只今、桜井の方は席を外しておりまして――」 先程までの緩やかな表情と異なり、やーやんは硬直していた。 「えっ、何? 私いるよ。 やーやん、大丈夫?」 「のあ、ちょっと来て」  他の社員に気づかれない様に、やーやんはのあを屋上まで連れ出した。 季節の移り変わりは早いもので、10月前になると17時を過ぎた辺りから 薄暗くなり屋上に沈む夕日が眩しくベンチを照らしていた。 周囲を見渡し、誰もいない事を確認したやーやんはのあを問い詰めた。 「私たち親友だよね」 「えっ、う、うん」 「いつも、言ってるよね同期入社だから助け合おうねって」 「う、うん」 「貯金って言うほど無いけど、少しは貸したりもできるから……」 「ちょっ、ちょっと待ってやーやん? 何? さっきの電話誰なの!」 のあは、やーやーんの挙動不審な行動や言動に違和感を感じ 逆に問いただした。 「けっ、けっ、警察だった」 「えっ……なんで」 「分かんない」 「えっ、なんで切ったの?」 「えっ、だってブランドの財布――」 「財布?」 「盗んだのかなって?」 「ええっーっ。盗んでないよ!」 やーやんは、自分達の月給では高額な財布の為、 簡単に買えない事から、身勝手に妄想を膨らませ過ぎていた。 「ごっ、ごめーん、のあ」 「でも、なんで警察?」 その時、のあの脳裏にある出来事が――。 表情の変化に気が付いたやーやんは、 のあに問いかける。 「何か、あったの?」 「ビール、頭からかけちゃった……」 「えええっー! 誰に?」 「……知らない人」 「OUT! それだね。きっと……」 「やっぱり…… 嘘でも違うって言ってよ。 親友なんだから……」 窃盗ではなく安心したのか、 のあの失態を知ったやーやんの表情は楽しそうだった。
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