Indigo  ― 藍 ―

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「ひきにくさん! たまねぎさん!」 小さな女の子が嬉しそうに歌を歌いながら歩道を歩く。 少女の進む先には一人の女性が呼び出し音の鳴り響く携帯画面を気にしながら 佇んでいる。 「タイミング悪いな」 着信画面には、桜井のあと表示されていた。 「のあゴメン。後で連絡するから」 女性は電話に出ることはなく、 携帯をショルダーバックへとしまい込んだ。 「きょーうの、ごはんはハンバーグ! ドンっ! きゃっ」 はしゃぐあまり歩道に立つ綺麗な洋服を着た女性とぶつかり 少女は転んでしまった。 「やよい! ほら、前みて歩かないと危ないだろ」 「ごめんなさい。パパ」  父親らしき男は、叱りながらも余程娘が気になったのか、 購入したばかりの食材を放り投げ、娘の身体を起こしていた。 「大丈夫か? 痛い所ないか」 「うん。ごめんね。パパ」 男は娘の無事に安堵したのか、目の前に立つ若い女性に ようやく気が付いた様子で深々と頭を下げていた。 「やよい。一緒に謝ろうな」 「お姉さん。ごめんなさい」 優しい父親の対応に微笑みながら、 女性も少女の目線にしゃがみ込み優しく声をかけた。 「やよいちゃん。ごめんね。 私も携帯見ていて気が付かなかったから。 だから、ごめんなさい」  とても温かい雰囲気に包まれる中、 女性が立ちあがり父親の表情を見た時、 二人の時が微かに止まった。 「あっ!」
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