Indigo  ― 藍 ―

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 それは間違いなく、あの時いた男。 のあが、事件を起こした時にカウンターにいた男の一人だった。 サツキがそう感じた様に、のあがサツキの手を引き逃げる姿を目撃していた 洋介は言葉を失っていた。 「あっ、あ、あの、ごめんなさい」 「お姉ちゃん、もう、謝らなくていいんだよ」 事情のわかるはずもない少女は、 優しくサツキをいたわろうとしていた。 「佐藤サツキです。あの、今ちょっとタイミングが悪くて、 あ、あの、またのあと、あ、いや桜井、あの時の彼女とお詫びするので」 慌てた様子のサツキは、連絡先の記載された一枚の名刺を洋介に手渡し 事を終えようとしていた。 「おんなじだね。お姉ちゃん」 あどけない表情を浮かべながら、少女はサツキに語りかけた。 「やよいも、佐藤って言うんだよ。ねぇっ、パパ」 娘の言葉をきいてようやく我に返ったのか、 「佐藤洋介といいます」 洋介は、自らの名を伝えていた。 「それとアイツ、気にしてないんで」 「えっ」 二人のぎこちない会話のやり取りを遮る様に、 歩道へ一台の高級外車が横付けされた。 運転手は降りることなく、 ホーンを軽く鳴らしサツキに合図をおくっていた。 サツキは、深く頭を下げ助手席に乗り込むと 車は静かに走り始めた。 「あれっ、今のナンバー?」 洋介は何かに気づいたようだが、 歩道に落ちた食材を拾い上げ父親の手を握る娘の手の温もりを 感じながら再び歩き始めた。
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