Indigo  ― 藍 ―

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 星空を見上げながら、遼はポケットから缶コーヒーを2本取り出した。 「飲む?」 「なんでコーヒーなんか持ってるんですか?」  解体予定のこのビルの屋上は、ここ数日の遼の隠れ場にもなっていた。 「内緒なんだけどさぁ。ここでよく昼寝してたんだよね」 「クスッ」 「お巡りさんがそんなことしていいんですか?」 「ダメだよ。誰にも言っちゃ、二人の秘密だからね」 「バタバタッ!」  慌てた勢いで、後輩の警官が屋上へと姿を現した。 「先輩! 自殺の女は?」 「怯えるように、少女は遼の背中に身を隠した」 「あのさぁ。違った違った。 おばさんの勘違いだって」 「勘違い?」 「このこさぁ。高校の授業で星の観察してたみたい。 この辺じゃ一番高いビルだから好奇心で登っただけ」  遼はこの場を何事も無かったかのように収め後輩警官を返した。 一瞬だが、少女とのやり取りの中で、 「クスリッ」とほほ笑んだ姿を目にし安心したのだろう。 「さぁて、でっ、何で自殺しようとしたの?」 「……」  少し時間はかかったが、次第に少女は遼に心を開き始め全てを打ち明けた。 クセ毛だろうか? 暗闇でもわかるほど少女の髪は傷んでいた。 それは、外見からくるコンプレックスに対し周囲の友人から受ける イジメに耐えかねないものだった。 些細な事でも、人の奥底は計り知れない。  大人は自由だ。 嫌な事があれば、逃げることも出来る。 イヤな仕事なら断ればいい、転職だってその気になれば自由だ。 金を使えばストレスだって発散できる。  しかし、子供の世界はそうはいかない。 嫌な事があっても、限られた世界の中で生きている彼女にとって、 逃げ場など無かったのだろう。 自らを消したい、逃げたいと思う逃げ場は死を選ぶしかないと 直感的に連想してしまう年頃だからだ。 「そっか、それじゃ、魔女しかないなぁ」 「えっ……魔女?」 「うん。魔女。 あの魔女はさぁ。驚くような魔法使うんだよ」 少女にそう伝えると、遼は携帯を手にし何かを交渉していた。 「えっ。いいの、悪いね。 じゃぁ、今からいくね」
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