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店内は吹き抜けで、一面がガラス張りのせいか驚くほど解放感のある空間だった。
フカフカの絨毯を敷き詰めたコース料理を頂けるゆったりとしたテーブル席と、
洋風な石畳を敷き詰めた一角に、いくつものお洒落な個別カウンターテーブルが並べられた少し照明が薄暗い立食スペースがあった。
立食と言っても、駅前の立ち飲み屋とは比較できない程、少し腰を掛けるデザインバーが設けられた、十分満足できる空間だ。
三人の男性は、迷うことなく薄暗い照明側へと向かいグラスを交わした。
「楓(かえで)、誕生日おめでとう! 乾杯!」
先に店先で待っていた男性の誕生日を祝う様に、大声ではしゃいでいる。
「おい、やめてくれよ。もう三十歳なんだから」
松坂楓、彼女いない歴三十年、優しすぎる性格に優柔不断だが
友達想いの好青年だ。
「インドア派で閉鎖的なお前がこんなお洒落な店にいるなんて!
今夜は一生忘れない夜にしような」
「遼(りょう)、その大声やめてくれよ」
「あっ、ごめんごめん。職業病だな」
藤城遼、楓とは幼馴染の独身で、趣味は筋トレ。
細身だが引き締められた肉体は世間で言う細マッチョだ。
人一倍正義感が強かったせいか、職業は警察官となり現在は地域を守る交番勤務だ。
二人の和やかな様子を一人落ち着いた雰囲気で見守るのは、
目じりに沢山のシワを寄せ微笑む佐藤洋介だった。
佐藤は二人にとって高校時代の一年上の先輩にあたるが、
成績不振のせいで一年ダブり、歳の差はあるものの同級生の関係でもあった。
三人の中で唯一結婚歴がある洋介は、頼れる存在でもあり大切な存在だった。
忙しい生活を送る中、三人が集うのは二か月振りとなっていたが、
遼はどうしても今夜実行したいサプライズがあり二人を呼び出していた。
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