Indigo  ― 藍 ―

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 床は板張り、壁にもいくつかの種類の木材が使用され 店の中はカントリー風の温かみのある雰囲気に包まれていた。 店内に唯一ある一台の椅子に腰かけ、魔女と呼ばれる女性に言われるまま 目を閉じる少女はリラックスしていた。 お香だろうか? 室内には、心を落ち着かせる不思議な香りが漂っていた。 「思ったより、ダメージしてるわね」  魔女は、少女の髪を優しく櫛でときながら真剣な眼差しで 毛先を見ている。 「聞いてもいいかな?」 「えっ」 「嫌なら答えなくてもいいけど、 名前教えてよ」 「あっ、私、三島朱里って言います」 「じゅりちゃんか。いい名前だね」 人に褒められる事が少ないのであろう。 少女がはにかむ表情を、鏡越しに魔女は見ていた。 「あっ、あの、魔女さんは、名前……」 「あたし、ミキだよ。 もう、魔女でも何でもいいけどね」 「ヨシ! イメージ出来たよ。 少しカットするけどいいね」 「うん」  少女は小さく頷いた。  自殺まで考える程嫌な思いをしていた原因の一つが、 彼女のコンプレックスであるクセ毛に気が付いた遼は、 美容師である、野島美樹に連絡をとり相談していた。 たかだか、髪の毛のクセ毛くらいと思われるが、 若い女性にとっては、とてもデリケートな問題の一つでもあった。 特に思春期の頃は、精神的なストレスを受けることも少なくはない。  自ら内にこもる様に目元に覆いかぶさった前髪をカットし、 痛んだ毛先を処理する。 クセ毛独特の湿気を含んだ時の爆発を抑えるように、 適度に、刃先を器用に動かす。  シャンプーで洗い流し手際よく下準備を済ませてゆく。 肌を保護するためのクリーム……  普段は、安い美容院でカットしか行ったことの無い朱里にとって、 一つ一つの工程が、魔法の様に思えて来た。 二人だけの室内で、朱里と美樹は親子の様に幾つもの会話を交わしていた。  幼い頃母親を病気で亡くし、父親と二人だけの生活をしている事や、 高校一年生になった十六歳ならではの悩みなど、 実の母親に語る様に、時間を忘れる程だった。  今朝、上履きに入れられたメモ紙には、 縮毛じゅりじゅり頭と書かれていたらしい。 「あんた本当に高校生なの? そんな、ガキみたいなことする奴なんか相手にするんじゃないよ!」
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