Indigo  ― 藍 ―

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テーブルに向かい合い、ケーキを頬張る美樹が朱里に問いかけた。 「どうして、私、魔女なの?」 「あっ、あの私は、こんなに綺麗にしてくれる魔法を使える方だからと思います」 「違うの。あいつ、遼は何て言ってた?」 「……」 美樹は遼の本心を聞き出そうとしていた。 「怒んないから、いってみなっ」 「あっ、あの、魔女とはスポーツジムで知り合ったって」 「うん、それで」 「すっごく綺麗な、大人の魅力を感じさせる素敵な女性だって――」 一瞬、美樹は嬉しそうな表情をしたが、 更に朱里を追い詰めてきた。 「でっ?」 「それは、魔法使いだからだって言って…… 運動を始めると少しづつ魔法が解けて…… まずは、まっ、眉毛が消えて……」 朱里は、自らを変身させてくれた尊敬する女性にこれ以上伝える事は出来なかった。 しかし、美樹は許してくれなかった。 「ごっ、ごめんなさい。 そっ、その、魔法が解けると魔女になるって! でっ、でも、更衣室で魔法をかけるからまた男を騙すって! ああっ、私じゃないです!ごめんなさい」 顔を上げる朱里の目には、ホールケーキにかぶりつく美樹の姿があった。 「あいつは、人を怒らせるのが得意だから仕方ないか。 もうすぐ、ダイエット目標体重になるの知ってて、 こんなデカいケーキ持ってくるし――」 少し寂しそうな瞳を見せる美樹に、朱里は話を続けた。 「それでも、俺は魔女が好きだって言ってました。 それに、ケーキ屋さんの前で待たされた時も、 魔女に沢山食わせないと、目標達成してスポーツジム退会するから、 会えなくなるからって……」 「……」 「あの馬鹿!もう全部食べてやるっ!」 そんなやり取りの中、閉店の札を掲げた店舗の扉が開いた。 「朱里、ごめんな」 そこには、遼から連絡を受け詳しい事情を理解した彼女の父親が 娘を迎えに来ていた。  命を絶とうとしたこと――、  イジメられていること――、  些細な事かも知れないが、クセ毛で悩んでいた事――、  未成年の少女を遅い時間まで連れまわしていることを父親に詫びながら、 遼は迎えに行くように伝えていたのだった。  父親と朱里は深々と、美樹に頭を下げ白い軽自動車に乗り込み車を走らせた。 「ねぇ。お父さん」 「うん」 「わたし、美容師目指そうかな……」
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