Indigo  ― 藍 ―

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 商店街のアーケードを抜けると一軒の創作料理居酒屋ー浪漫ーの 赤ちょうちんが見えてくる。 200種を超える、豊富なメニューで若者の心を掴む人気店の店先に のあの姿があった。 「いらっしゃいませ! 何名様ですか?」 「少し前に一人先に来てると――」 のあが話し終える前に、威勢の良い女性店員は満面の笑みを浮かべ 掘りごたつのある個室へと案内した。 「ごめんね、栞(しおり)。誘っておいて遅れちゃって」 個室には束ねた髪を解き、綺麗なロングヘヤーをかきあげる酒井栞が メニューを眺めていた。  真っ白い肌と細身の体に細フレームのボストン型眼鏡をかけ、 病院の事務作業をする姿は感じさせなかった。 のあとは高校時代の同級生であり、サツキを含め事あるごとに浪漫で 女子会を開く中だった。 「大丈夫だよ。私もさっき来たところだよ」 夜は少し肌寒さを感じたため、羽織っていたカーディガンをのあは脱ぎながら 傍にいた店員に注文を伝えた。 「取り合えず、生ビールくださいっ! 栞も同じでいいよね?」 いつもの様に、最初の乾杯ビールを注文しようとした時、 栞は意外な言葉を口にした。 「あっ、私先に、ジャンボイチゴパフェくださいっ!!」 「えっ……」 のあは呆然と口を開いたままで、 注文を受ける女性店員は、 何度も注文を繰り返し、確認していた。 「以上でお間違いないですね?かしこまりました」 「生、一丁!」 「あいよ!」 女性店員の高い声に、店中の店員が愛想よく答える。 「ジャンボイチゴパフェ一丁!」 「……」
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