Indigo  ― 藍 ―

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「カッチ カッチ」 一台の高級外車がマンションの前でハザードをともしながら停車する。 「良かったら、美味しいコーヒーでも飲みませんか?」 「ありがとう。だけど、明日早いからまたにするよ」 男はサツキの誘いを自然に交わし、頬に口づけをする。 「じゃ、また連絡するから」 車を降りたサツキに振り帰ることなく、一台の高級車は姿を消した。 「……」 「あいつも、ダメか――」  玉の輿を狙うべく、お見合いパーティで知り合ったお金持ちを何とか 誘い出すものの、ディナーを済ませホテルの一室で身体を絡み合わせる。 ただ、それだけだった。 男は深く関わることは面倒なんだろう。 初めからサツキの身体だけを目当てにしているだけかも知れない。 分かってはいても、サツキにはどうすることも出来なかった。 頬をつたう一粒の涙が、サツキの胸の奥を苦しめさせていた。 「そうだ。のあに連絡しなきゃ」  夕方、のあの着信を無視していた事を思い出したサツキは妙に 人恋しくなったのか、のあの携帯へ連絡を入れた。 「馬鹿野郎っ! 何時だと思ってるんだっ! 閉店時間まであと二時間しかないぞっ。 そうだ! そうだぁ! すぐに、出頭しなさぁーい!」 酔いつぶれたのあの罵声が、耳元にささる。 「えっ。もしかして、栞もいるの? わかった。すぐ行くね」  流した涙をハンカチで拭いだ筈なのに、 サツキの目から再び温かな涙が溢れだしていた。 「よしっ。今夜は飲むぞぉーっ!」
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