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三十分程経っただろうか。
次第に店内は混み始め、楓は小さく呟いた。
「遼、あっちの窓側の小さなカウンターに移動しようか?」
人一倍気遣いの出来る優しさを持ち合わせた楓にとって、
三人が利用するカウンターテーブルは少し広く感じたのだろう。
自然と他の客に対し、目を配る様になっていた。
「相変わらずだな。そんなんじゃ、生きてて疲れるぞ」
「そうそう。洋ちゃんの言う通り。それに、そろそろだしな」
「そろそろ?」
店内に鳴り響くジャズ演奏に耳を傾けながらも、
遼の言葉に疑問を抱いた楓は洋介に目を向ける。
洋介はピスタチオを口に入れ、微笑み返していた。
「また二人して悪だくみして」
遼と洋介が事前にセッティングしていたサプライズ。
それは、彼女いない歴三十年の楓の人生を大きく変えるべく、
同世代の女性との席を設けたものだった。
絨毯と石畳の境界線辺りに佇む色気のある三人の若い女性達、
楓の背中越しに遼は右手を大きく上げて誘い出す。
二人の悪だくみに半分拗ねた様子の楓は、洋介のピスタチオを
子供の様に奪い取り口一杯に詰め込んでいた。
歩み寄る女性たちの距離が縮まるにつれ二人の微笑みが増してゆく。
あと10m、人混みの中では分からなかったが、
三人の女性はとてもスタイルが良く、幼さを残しつつも魅力的な雰囲気を
醸し出していた。
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