purplep - 紫 -

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 あと5m。 楓はまだ気が付いていない。 楓のすぐ傍に未来の彼女、 いや、新婦になるかもしれない運命の出逢いが始まろうとしていた。 遼は、彼女たちにジェスチャーで楓の肩に触れるよう合図を出した瞬間。 それは、不意に訪れた。 夜空を見上げた時、ふっと流れ落ちる流星の様に――。 あまりにも想定外で、何一つ願い事などできなかった瞬間の様に、 「ジャーーーッ」 テレビ中継で見かけたことがある風景。 優勝を祝杯する野球選手の嬉しそうな表情。 一度はやってみたい、きっと爽快な気分に違いない、 そう感じていたイメージとは余りにもかけ離れていた。 ポタポタと楓の額から流れ落ちる冷え切った液体。 「えっ!?」 楓の傍には、見覚えの無い若い女性が一人。 訳が分からず硬直する三人の男達と、 楓の肩にあと20cm程迄伸びていた手を静かに引き戻す女性達。 見知らぬ女性は、楓の頭上で空になったジョッキをカウンターに置き、 「最低」 その一言だけを残し、その場を立ち去った。 「えっ」 「……」 楓は、洋介に確認する。 「洋ちゃん。こっ、これサプライズ?」 洋介は驚いた表情で、首を横に振るだけだった。 ずぶ濡れの楓が、遼に確認しようと振り返った時、 初めて楓は後ろに佇む女性達に気が付いた。 「あっ。あれ? 今のなんだ? ああっ、きっと店側の演出だよ。バースデー演出」 その場を繕う様に遼は言葉を返していたが、 異様な雰囲気を察した女性たちは、遼にごめんねとだけ告げ 帰ってしまった。
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