72人が本棚に入れています
本棚に追加
/186ページ
Indigo ― 藍 ―
「おはようございます。ニーシマーケットコーポレーションです」
ICタグを首からぶら下げた若い女性が電話対応を行い、
簡易ミーティングは時間の有効活用の為なのか、
スタンディング形式でテーブルに映し出されるモニターをチェックしながら
業務進捗を行う男女の姿が――。
ニーシマーケットコーポレーションは、
一部上場企業が手を出さない隙間産業(niche market) に視点を向け
急成長中のベンチャー企業だ。
広々としたビルのワンフロアをぶち抜きにした、
都心の開放的なオフィスの中央に位置するガラス張りの小さなミーティングルームに
桜井のあはいた。
「それでは、次の議題だが」
主導権を持ちながら淡々と部下に指示を出す男の傍に座るのあは、
少し硬い表情をしていた。
「これまで、当社においても合理化は進めてきたが、
もう一つ踏み込んだ方法によりコストダウンや更なるIOT化を進め、
クライアントへ提供したいと考えている」
「桜井、IOTってわかるか?」
「えっ、その、あの、聞いたことはあるのですが――」
向井部長は手に取ったホワイトマーカーをのあに手渡し、
ガラスボードに今日の日付を書くよう命じた。
「2018年9月30……」
徐々にインクがかすれ始めた。
「あっ、あのすみません。新しいマーカ―とってきます」
扉を開けようとするのあを、向井は呼び止めた。
最初のコメントを投稿しよう!