仮面の自分

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 揺れる電車の中、フワリとしたシート、一両しかない車内には、数人の乗客しかいなかった。こんな様子では赤字路線だろう。でも無くすと困る人がいる、だから仕方なく運営しているのだろう。なんだか自分と重なって見えた。  電車を乗り継いでなんとか終電で会社にたどり着いた。外から見ると、一部屋だけの明かりが灯っている。 「お疲れ、柳本!」  勢いよくドアを開けるが、柳本は画面に食らいついていた。 「お疲れっす!」  振り向きもせずに挨拶を交わした柳本の隣に座り、すぐさま自席のパソコンを立ち上げる。 「どうだ? 状況は?」  エンターキーを押すと、手を伸ばし、「うーっ」と、背もたれに仰け反る、柳本のお決まりのポーズだ。 「ダメです、あいつデータ全て消してますね、一から作り直しですよ!」 「なんだと! それじゃあ間に合わないんじゃないか?」 「間に合わせるんですよ! じゃないと、またパワハラっスよー」 「お前っていい奴だな......」 「課長こそ......」  ゴミ箱から探し出した校正紙、仮のデザイン案を元に俺達は必死に作り直した。  表面を仕上げる柳本の隣で裏面のデザインに取り掛かる、永本が一ヶ月かけて作り上げたものを、数時間でできるのだろうか、そんな無謀とも思える足掻きだったが、隣の柳本のおかげで、やってみようという気持ちになる――――  新聞配達のバイク音がする。柳本が部屋の明かりを消して、朝が来た事に気づいた。 「なんか、出来ちゃいましたね」 「あー、なんとかな」  ゆっくりマイペースの永本の仕事が今回ばかりは功を奏した。印刷会社に連絡して、データを送信する。これで終了、窓を開けて朝の空気を吸い込む。鳥の鳴き声が爽やかに聞こえた。 「なあ柳本、飯でも行くか?」 「そっすねー」  安心感と達成感が入り混ざり、なんとも言えない爽快感が俺を駆け抜けた。柳本の清々しい顔も、それを物語っていた。  牛丼で胃袋をいっぱいにして家の玄関を開けた。  やはり最後の言葉のとうり、磨理は帰って来てはいなかった。静まり返った部屋を紛らわすようにテレビをつけた。ソファに座ると一気に眠気に襲われた。そういえば寝ていない、目を瞑れば一瞬で無の境地へ行く事ができるだろう――
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